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札幌地方裁判所 昭和40年(わ)375号 判決 1965年10月29日

被告人 宮崎利夫

昭一二・一・一〇生 会社員

主文

被告人を懲役一年四月および罰金五〇、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができない場合は、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

未決勾留日数中三〇日を右懲役刑に算入する。

被告人に対する公訴事実中銃砲刀剣類等所持取締法違反の点につき、被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  昭和四〇年三月一三日午後八時ごろから翌一四日正午ごろまでの間、札幌市南九条西二一丁目三八番地所在の善こと佐藤邦好方において、同人が賭博場を開張し、坂東幸雄ほか一三名とともに、花札を使用して金銭を賭け、俗に「あとさき」または「とつかん」と称する賭銭博奕を行なわせ、同人らから寺銭名義のもとに金銭を徴収して利を図つた際、賭金を調整し、賭客から寺銭を集めるなどのいわゆる中盆役および札まきの役をつとめてその犯行を容易ならしめ、もつて、佐藤邦好の右犯行を幇助し

第二  (一) 右日時場所において、坂東幸雄ほか一三名とともに、花札を用いて金銭を賭け、俗に「あとさき」または「とつかん」と称する賭銭博奕をなし

(二) 同年同月二〇日午後八時三〇分ごろから翌二一日午前一時ごろまでの間、同市大通り西一四丁目所在の三鈴旅館こと片山コト方二階六畳の間において、田中末信、山口明弘ほか四名とともに、前同様花札を用いて金銭を賭け、俗に「あとさき」または「とつかん」と称する賭銭博奕をなし

たものである。

(証拠)(略)

(確定裁判の存在)

被告人は、昭和四〇年五月一三日札幌簡易裁判所において、傷害の罪により罰金二〇、〇〇〇円に処せられ、右裁判は、同月二八日確定したもので、この事実は、検察事務官作成の被告人に対する前科調書によつて、これを認める。

(累犯となる前科)

被告人は、昭和三八年三月一日札幌地方裁判所において、恐喝未遂・銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪により懲役一年六月に処せられ、同三九年四月三日その刑の執行を受けおわつたもので、右の事実は前記前科調書によつて、これを認める。

(一部無罪の理由)

被告人に対する公訴事実中銃砲刀剣類等所持取締法違反の点の要旨は、「被告人は、法定の除外事由に該当する場合でないのに、昭和三九年六月中旬ごろから同四〇年五月三一日ごろまでの間、札幌市北一一条西一丁目西塚アパート内自室において刃渡り約三九センチメートルの刀一振を所持していたものである」というにある

ところで、同法三条一項によつて所持を禁ぜられている「刀剣類とは、社会通念上「刀」「剣」「やり」および「なぎなた」ならびに「あいくち」および「飛出しナイフ」のそれぞれの類型にあてはまる形態と実質をそなえる刃物を指称するものと解すべく、したがつて、たとえ「刀」の形態をそなえ、刃渡に相応に相応する部分が一五センチメートル以上あり、切先が鋭利で容易に人を殺傷しうる危険性のある物件であつても、「刀」としての実質(すなわち、鋼質性の材料をもつて製作された刃物またはある程度の加工により刃物となりうるものであること)をそなえない物件は、いまだ、前記法条にいう「刀剣類」にあたるものということはできない」(最高裁昭和三二年(あ)二五九九号、同三六年三月七日第三小法廷判決刑集一五巻三号四九三頁参照)。

ひるがえつて、証拠上、本件で被告人が所持していたことの明らかないわゆる「小刀」(昭和四〇年押一一六号の三)は、たしかに、「刀」としての形態をそなえ、刃渡相応部分が一五センチメートルをこえ、かつ、切先が鋭利で、刺突能力が大きく、人を殺傷しうるに足る危険性をもつたものであることは否定できないところである。しかしながら、鑑定人長岡金吾作成の鑑定書によると、本件で「小刀」とされている物件(以下「本件小刀」と呼ぶ)の材質は、市販の構造用圧延鋼材平鋼で、その推定含有炭素量は〇・一%、すなわち俗に軟鋼といわれるものであり、刃金・地金の構成がなく熱処理による硬化もなされていないこと、つぎに、本件小刀は現在の状態のままでは、一般的な刃物類としての切断能力を発揮することが困難であること、さらに、刃付加工をほどこした場合には相当大きな切断力を発揮する余地があるものの、材質が軟鋼であるため、切れ味を維持することを期待しがたく、実用的刃物としての使用に耐えないものであることが認められる。

したがつて、検察官主張のごとく、本件小刀が小作業により刃付加工をなしうるものであり、また、刃物として完成直前の状態にあるとしても(稲村栄一の検察官に対する供述調書参照)、右に述べたように、かりに刃付加工を行なつても、材質上刃物性の維持を期待することが困難で、実際上、刃物としての使用に耐えないものである以上、本件小刀をもつて、銃砲刀剣類等所持取締法二条二項にいわゆる「刀」としての実質をそなえたものということはできないと断ずるほかない。

よつて、被告人に対する本件公訴事実中、銃砲刀剣類等所持取締法違反の点については、罪とならないものとして、無罪を言い渡すこととする。

(法令の適用)

法律にてらすと、被告人の判示所為中、第一の点は刑法一八六条二項、六二条一項に、第二の(一)、(二)の各点はいずれも同法一八五条本文、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、被告人には前示確定裁判を経た罪があり、これと判示の各罪とは刑法四五条後段の併合罪の関係に立つから、同法五〇条により未だ裁判を経ていない判示の各罪につきさらに処断すべく、判示第二の(一)(二)の各罪については、所定刑中罰金刑を選択し、なお、前示のごとき累犯となる前科があるので、刑法五六条、五七条を適用して判示第一の罪の刑に累犯加重をなし、さらに、右第一の行為は幇助犯であるから、同法六三条、六八条三号にしたがい法律上の減軽をほどこし、以上は、同法四五条前段の併合罪であるので同法四八条一項本文、二項にのつとり、第一の罪に関する前記懲役刑の刑期および第二の(一)、(二)の各罪に関する各罰金の合算額の範囲内で被告人を懲役一年四月および罰金五〇、〇〇〇円に処する。なお、換刑処分につき同法一八条を、未決勾留日数の算入につき同法二一条を、一部無罪の言渡につき刑訴法三三六条を、訴訟費用につき同法一八一条一項但書を各適用する。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 角谷三千夫)

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